敦盛そば

神戸市須磨区須磨浦公園内の敦盛塚の前にあるそば店。江戸時代から有名な店で、現在でも『敦盛そば』の屋号を継いだそば店が営業しています。
庵
そば屋には『何何庵』という屋号が多いのはなぜでしょうか。江戸の浅草に一心山極楽寺称往院というお寺があり、院内に道光庵という庵室がありました。庵主が信州出身でそば打ちがうまく、そば振る舞いをしたのが人気を博してたいそう繁盛しました。それにあやかろうと庵号を用いるそば屋が出てきたといいます。
石臼挽き
石臼製粉のこと。また、石臼で挽いたそば粉のこと。石臼は熱を持ちにくいため、粉焼けがせずそばの香りがとばないといいます。高級そば粉にもちいられます。
一鉢、二延し、三庖丁
うまいそばの条件。木鉢での水回しとくくり、麺棒を使ったのし、庖丁で切る手際でそばのできばえが決まります。
討ち入りそば
元禄15年12月14日、赤穂浪士は吉良邸に討ち入りました。四十七士は討ち入りの前にそば屋の二階に集合してうどんやそばを食べたという口碑があります。それをしのんで12月14日の義士祭の日に「討ち入りそば」を食べる習慣ができました。
上置きと台
おかめそば、鴨南蛮、天ぷらそばなど種ものの具(種)を「上置き」といいます。麺は「台」といい、その台を変えることを「台変わり」といいます。天ぷらそばの台変わりなら天ぷらうどんです。
駅そば
駅のホームや改札内、駅構内にあるそば店(主に立ち食い形式)とそこのそばのこと。かつては使い捨て容器に入れてそばを車内に持ち込むこともできましたが、最近は見かけなくなりました。駅そばの元祖は函館本線の長万部駅または森駅とされますが、広く知られるようになったのは信越本線の軽井沢駅で、明治30年代のこと。
辛味大根

小さなタマネギくらいの大きさの大根。きわめて辛くわさびの代わりとして用いられ、わさび大根ともいいます。江戸時代の俳文集『風俗文選』には「伊吹蕎麦 天下に隠れなければ からみ大根 又此山を極上と定む」とあり、滋賀県伊吹産の辛味大根が賞賛されています。
生蕎麦
そば屋の暖簾にはよく「生蕎麦」と書いてあります。これは「なまそば」ではなく「きそば」と読みます。つなぎが多い駄そばではなく、そば粉十割の上等なそばという意味。
下手物
カレーそばやトンカツそばの類いを「げてもの」として軽蔑するむきもありますが、本来そばは「もりそば」についで「かけそば」しかなかったのだから、天ぷらそばなどの種物も最初は下手物だったはず。いつしかそれが正統的なそばに仲間入りしたにすぎません。
小咄「そばきり」
鯨が久しぶりに品川にやってきたので小魚たちが集まり、親分、ようこそお越しになった。何かごちそういたしましょう。望みをお聞かせくださいという。鯨が、いやいや、道々も鰯をたくさん食べてきたから、他のものは望まない。そばでも振る舞ってくれろというと、そばならお安いご用、とさっそくそばを用意しに行こうとするのを鯨が呼び止め、コレかならず、もり(=銛)はごめんだ。
三たて
そばは、挽きたてうちたて茹でたての三拍子そろったのがうまいということ。
信太
信太の森に棲む白狐の物語『葛の葉』で、人との間にできた子供を残し母狐が「恋ひしくば訪ねきてみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」と歌い森に帰ります。谷崎潤一郎の『吉野葛』にもこの話が出てきます。うどんそばの「きつね」のことを「しのだ」ともいいます。
新そばの季節
ソバには、春ソバ、夏ソバ、秋ソバとありますが、味・香りともに秋ソバが優れています。新そばとは秋新のこと。ほんのり緑色が残っている新そば粉で打ったそばは格別。
そば切りの歴史
そばはもともと粉食ではなく粒食で、のちに製粉の技術ができてからは、そばがきやそば焼き餅などにして食べられていました。そば切りの登場は意外と新しく、文献上では1574年(天正2年)までしかさかのぼれません。
そば米

読みかたは「そばごめ」または「そばまい」。玄そばを約10%の塩水に4〜5時間ひたし、蒸し器で殻が破けるまで蒸し、それを天日で干して籾すり機で殻を除き、精米器にかけて甘皮をとったもの。白米に混ぜて炊いたり、そば米だけで雑炊にしたりします。
蕎麦と西瓜
『本草綱目』にある食い合わせの一例。そばとスイカをいっしょにたらふく食べれば、食い合わせであろうとなかろうと、腹も痛くなろうというものです。
そば猪口
もりそばのつゆを入れる容器のこと。猪口は「ちょく」と読み、「ちょこ」と読むのは訛り。本来は酒器または湯飲みとして用いられていましたが、江戸中期からそばつゆ入れに使われるようになりました。
そば謎かけ
木曽の山道とかけて打ちたてのそばと解く
その心は
空身であがれ(=辛味大根で召し上がれ)
そばは牛の鼻息で茹だる
そばはすぐに茹であがるということ。さらしな粉100パーセントの細打ちのそばなら、10秒もかかりません。つなぎの小麦粉が多いほど茹でるのに時間がかかります。
そばは七十五日
そばは非常に成長の早い穀物で、75日もあれば収穫できるといいます。また条件の悪い土地でもよく生育するため、昔は救荒作物としてつくられました。『続日本紀 (しょくにほんぎ)』の元正天皇の項にも飢饉にそなえて蕎麦を植えよというみことのりが載っています。
そばまえ
そばを食べるまえに飲む酒を「そばまえ」といいます。昔風のそば屋さんの品書きには、「上酒」とだけ記して酒の銘柄は書いていません。店のそばと合った酒がひといろだけおいてあるからです。
そば湯

そばを湯がいた後のゆで汁のこと。そばの栄養素は水溶性で、そば湯にはルチンやコリンなどそばの栄養素が豊富に含まれているので、そばを食べた後そば湯を飲むとよいでしょう。そば焼酎のそば湯割りもおすすめです。
韃靼そば
ダッタン種のソバをもちいたそば。ダッタン種はルチンを普通種のソバの100倍以上も含み、健康食品として注目されています。麺の色は中華麺のように黄色く、わずかに苦い味がするので「苦ソバ」ともよばれます。
つなぎ
そば粉だけだとつながりにくいので、小麦粉や山芋や鶏卵などをつなぎとしてそば粉に混ぜます。ときには小麦粉をそば粉で割ったような小麦粉だらけの代物がでてきますが、そのような「そば」のことをまじめなそば屋さんは「うどんの化け物」とよびます。
なんばん
そば屋では葱のことを「南蛮」といいます。鎖国前の日本で南蛮人(ポルトガル人・スペイン人)がよく葱を食べていたことからという説があります。関西では大阪の難波が葱の産地であったので、「なんば」ともいわれます。
伸しべらと切りべら
麺棒で伸した生地の厚みより包丁で切った幅のほうが広いのを「のしべら」、切った幅より生地の厚みのほうが厚いのを「きりべら」といいます。
挽きぐるみ
玄そばを挽きこみ、殻を除いて製粉すると挽きぐるみそば粉になります。挽きぐるみそば粉は、わずかに残った殻と甘皮まで挽きこむので、色が黒くて香りが強くなります。田舎そばに用いられます。
北斎とそば
葛飾北斎(1760-1849)は生涯に93度も引っ越したということで有名ですが、たいへんな蕎麦好きであったことも知られています。90歳という当時としては稀なほどの長命であったことから、蕎麦と長寿ということで北斎の名はよく引き合いにだされます。
乾しそば
生のそばを乾したもの。「十割そば」「八割そば」などとそば粉の含有率が製品名に示されていない場合には、パッケージのうらをみてください。そば粉が30%未満であれば含有率が書かれています。30%以上なら割合がおおい順に「そば粉、小麦粉、食塩」のように原材料名が並んでいます。
丸抜き

殻のついたままのそばの実が玄そば。玄そばから殻をきれいに取り除いて、割れずにそのままの形をとどめているそばの実のことを丸抜き、または抜きといいます。これを製粉すると甘皮まで挽き込んだ丸抜きそば粉になります。
晦日そば
晦日(旧暦の月末30日、つごもり)に食べるそばのこと。江戸中期に商家を中心にはじまった風習と考えられます。大晦日に食べるそばは「大晦日そば」「大つごもりそば」といい、現在の「年越しそば」につながったといわれます。なお、本来の年越しそばは春の節分の日に食べるものでした。
もみじおろし
大根の切り口に割箸で蓮根のように穴をあけ、そこに種をぬいた赤唐辛子をさし込んでおろしたもの。一般には天つゆに入れることが多いですが、出雲そばではもみじおろしが薬味に使われます。
門前そば
神社仏閣の門前町にあるそば店とそこのそばのこと。庵号をつけたそば店がおおいことからも、そばと寺方の関係の深さがわかります。東京の深大寺、長野の善光寺、島根の出雲大社など、社寺の門前にはおおくのそば店が営業しています。
薬味
食べ物に辛味や香りを添えて一層美味にするもの。加薬。そばの主な薬味としては、大根おろし、さらし葱、山葵、生姜、海苔、シソ、胡麻、七味唐辛子、一味唐辛子などがあります。:
湯ごね
十割のそばをうつとき、そば粉の一部に熱湯を加えて練り上げる方法。湯ねり、湯もみ、湯とき。熱湯でそば粉のでんぷんを糊化し、それを中心にしてまわりのそば粉を溶かしつけていく方法です。水でこねるよりも楽にうて、農山村で昔からおこなわれてきたやり方です。
湯桶

湯桶(ゆとう)とはそば湯を入れて出す容器のこと。丸形と角形のものがあります。角湯桶の場合、かどのところに注ぎ口がついていることから、他人の話に横から口出しする人のことを「そば屋の湯桶」といいます。「ゆ」は訓、「とう」は音であることから、「手製」「切符」「雨具」など一つの熟語に音と訓が混ざった読み方を湯桶読みといいます。
輸入蕎麦
『日本農業新聞』の記事によると、「製粉業者などへのソバの年間供給量はおおむね12万トン前後(玄ソバ換算)。うち約4万トンが国産で、残りは輸入が占める」とあります。つまり、3分の2は輸入に頼っていることになります。
夜鳴きそば
夜遅くまで街に出て売り歩くそば屋とそこのそばのこと。夜鷹そば。ラーメンの夜鳴きそば屋は今でもみかけますが、夜鳴き蕎麦屋は古典落語と時代劇のなかだけのものになりました。
稜
山の尾根のことを稜線というように、稜とは物がとがった
そばだつ様子を表す言葉です。蕎麦は険阻な山岳地帯にも生育し、実は特徴的な三稜形であることから、この植物を「そば」とよぶようになったと考えられます。
ルチン
そば粉に多く含まれる栄養素のひとつ。ルチンはポリフェノールの一種で、毛細血管の働きを安定・強化させ、動脈硬化を防ぎ、脳出血や出血性の病気に予防効果があるといわれます。
わが里は月と仏とおらがそば
一茶の句と伝えられます。一茶の故郷は柏原、月は姨捨、仏は長野の善光寺で、場所はばらばらですが有名な句です。「信濃では月と仏とおらがそば」というバリエーションもあります。
山葵
すりおろしたワサビはざるそばの薬味として欠かせません。独特の香りと辛味が食欲をそそるだけでなく、そばに含まれるビタミンB
2の働きを増すともいわれます。
割
そば粉とつなぎの小麦粉との割合のこと。そば粉100パーセントなら「十割(じゅうわり)」、十対一なら「十一、外一(といち))」、十対二なら「外二(そとに)」、九対一なら「九一(くいち)」、八対二は「八二」ではなくなぜか「二八(にはち)」、五対五なら「同割」といいます。そば粉二に小麦粉八のような代物は「逆二八」とよびますが、二八とはもともと逆二八だったという説もあります。
割子そばの食べ方

割子そばにはそば猪口はつかないので、一番上の段に薬味をのせて直接つゆをかけて食べます。食べ終わったら残ったつゆを二段目の割子にうつし、薬味とつゆを追加します。最後の段を食べ終わると、残ったつゆにそば湯を足して味わいます。